この記事では株やFXなどの投機取引の中で、特に含み損を抱えているときに陥りやすい心理現象【認知的不協和】について解説していきます。
投資家の心理についてまとめた記事はこちら
認知的不協和とは
認知的不協和
自分の中で矛盾する新しい事実を突きつけられた時に感じる不快感のこと
人は認知的不協和(不快感)を覚えた時、これを解消するように、自身の行動・考えの否定、或いは新しい事実の否定どちらか一方を行います。
トレードでいうと、上がると思って買ったが、予想に反して下がる(含み損)、売りの情報(悪材料)が出て不安になる(不快感を感じる)といった状況です。
自身の当初の予想・考え(買い・株価上昇)と異なる新たらしい事実が出現する(売り情報・株価下落)と、当初の考えを否定するか、新しい事実を否定します。
典型的な例としては、良い増資などが挙げられます。
増資が殆どの場合には、株価を大きく下げる悪材料であることを多くの投資家は知っていますが、ある程度盛り上がっている銘柄で増資が発表された場合には、必ず良い方向で解釈しよう(させよう)とする投資家がいます。
悪材料を好材料と考えようとする→新しい事実の否定or自身の考え(増資は悪材料)の否定
認知的不協和を解消する方法と例
お金、時間、気遣いを含めた大きなコストを払って交際を始めた相手が、付き合ってみるとつまらない人だった場合。
①認知要素の一方を変化させて協和関係にする
→「大したコストは払っていない」と認知を変化させる
②不協和認知の過小評価と協和認知の過大評価
→「過去のコストは大きな問題ではない」と考える
③新しい協和的認知要素の追加
→「交際相手がいると世間が広がる」と考える
人は時に、自分の意に反した行動をとる(とらざるを得ない)時があり、そのとってしまった行動を正当化するように態度変容する場合があるのです。
上に述べたように、認知的不協和を解消するには「新しい事実を受け入れて、それに矛盾しない行動に変更する(①、②)」「新しい事実に矛盾しない認知要素を追加する(③)」という方法があります。
新しい事実に矛盾しない認知要素を追加することについては「酸っぱいブドウ(『イソップ物語』)」と「甘いレモン」という例えがあります。
酸っぱいブドウ
Aが手に入らないからAには価値がないという新しい認知要素を追加して認知的不協和を解消しようとします。
ある日、キツネがおいしそうに実ったブドウを見つけます。
キツネはブドウを食べようとして飛び上がりますが、高いところにあるためどうしてもとることができません。
何度試してみても届かないため、最後にキツネは「あのブドウは酸っぱくてまずいだろう」と決めつけて立ち去ってしまいます。
キツネは、ブドウを食べたいという事実に対して「ブドウをとることができない」という新しい事実に直面しました。
この時にキツネが感じた不快感(認知的不協和)を解消するためにとる行動は「ブドウをとらないこと」と「ブドウをとることができないという新しい事実を否定すること」です。
物語の中のキツネは後者を選び、「あのブドウは酸っぱくてまずそうだから食べたくない」ということにして「ブドウをとれない」という新しい事実を否定しました。
このように、手に入れることができないものがあった時、そのものの価値自体を否定することで認知的不協和を解消しようとする場合があります。
甘いレモン
Aしか手に入らないからAには価値があるという新しい認知要素を追加して認知的不協和を解消しようとします。
甘いレモンとは、手に入れた果物がレモンしかなかった時に「このレモンは甘くておいしいだろう」と決めつけて満足しようとするという例えからきており、「酸っぱいブドウ」と対照的な例です。
この場合は、レモンを手に入れたという事実に対して「他の果物は手に入らなかった」という新しい事実に直面しています。
この時に感じた不快感(認知的不協和)を解消するためにとる行動は「他の果物を探して手に入れること」と「レモンしか手に入らなかったという新しい事実を否定すること」です。
例えでは後者を選び、「手に入れたレモンは甘くておいしいから他の果物は必要ない」ということにして「レモンしか手に入らなかった」という新しい事実を否定しました。
このように、手に入れたものだけで満足しようとすることで認知的不協和を解消しようとする場合があります。
認知的不協和を避ける方法
人は認知的不協和に陥ると、それを解消しようとして行動を起こしたり新しい認知要素を追加したりする傾向にあります。
予想に反して含み損になった時、悪材料が出た時に、何とかポジションに都合の良い材料や他のトレーダーの考え・ツイートを探し出そうとしたり等ですね。
しかし、それらは一時的な解決になるだけで、本当に自分にとって最適な行動や認知が見えなくなっている恐れがあります。
ポジションをとった後、特に損失を抱えている時は誰もが不安になり、冷静さを欠きます。
自身の資金に対してポジションが大きい、損失が大きい場合は尚更です。
トレードにおいて心理面の影響を小さくする最も簡単な方法は、ポジションサイズを落とすことです。
極端な例でいうと、自身の所得が月20万-30万である場合、月2000円-3000円程度の損失なら生活に影響は出ず、損失によるストレス(不快感)も小さいでしょう。
自身のトレードスタイル・手法から月のトレード回数を把握し、月間・トレード毎にどれくらいの損失ならストレスが小さい、生活に支障が出ないか把握しておくと良いでしょう。